信頼は危険か?玉木雄一郎代表の不倫問題と信頼の回復【心理学者的考察】

2024年11月、国民民主党の玉木雄一郎代表が週刊誌による不倫報道により大きな注目を集めました。

彼はすぐに会見を開き、報道内容をおおむね認めて謝罪しましたが、政治家という公的立場やリーダーとしての責任を持つ人物にとって、今回の報道はあかなりの痛手であると考えられます。

特に、玉木氏が以前提案していた「セキュリティ・クリアランス法案」によって、国家機密を扱う公職者の「信頼に値するか」を調査すべきと訴えてきたことから、この不倫報道が彼自身の信頼基準に大きな疑念を生じさせることになりました。

本記事では、心理学の研究に従事してきた筆者の尊敬する社会心理学者・山岸俊男先生の理論「信頼の構造」に基づき、信頼がどのように築かれ、崩れるのか、そしてそれをどう取り戻すのかについて深く考察します。

また、玉木氏が提案してきた「セキュリティ・クリアランス法案」とラベリング理論の視点を交え、今後も彼が信頼に値する人物かどうかを検討していきます。

玉木雄一郎代表の不倫問題の概要

まず、玉木氏の不倫問題について簡単に整理しましょう。

玉木氏は長年、国民民主党の代表として国民からの支持を得るべく活動してきました。

しかし、2024年11月の週刊誌によって、彼がプライベートで不倫関係にあったことが報じられ、家族や支持者、国民に対して大きな衝撃を与えました。

この報道に対し、玉木氏は会見で報道内容の大部分を認め、家族や国民に謝罪の意を表明しました。

この不倫問題により、玉木氏が提案していた「セキュリティ・クリアランス法案」の基準についても再び注目が集まりました。

この法案は、国家機密を取り扱う公職者の信頼性を確認するためのものであり、彼は「信頼に値するか」を判断する基準として、行動や倫理観の調査も含むべきだと提案していました。

不倫問題の発覚によって、この信頼の基準が玉木氏自身に当てはめられる形となり、彼が公人としての基準を満たす人物なのかどうか、多くの人が疑問を抱いているのです。

山岸俊男先生の「信頼の構造」とは?

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山岸俊男先生は、日本を代表する社会心理学者であり、信頼と裏切りのメカニズムについて多くの研究を行いました。

彼の著書『信頼の構造』において、山岸先生は「信頼」と「安心」という概念を区別しています。

  • 信頼:相手が期待に応えてくれると信じることで、裏切られるかもしれないリスクを抱えつつも相手を信じる意思のことです。信頼には、相手がその期待に反する行動を取る可能性が含まれていますが、それでも信頼を寄せるのが「信頼」という概念です。
  • 安心:安心は、リスクがなく、何も心配せずにいられる状態を指します。安心できる関係は、家族や親しい友人といったリスクが伴わない親密な関係が主な例です。

この理論を玉木氏のケースに当てはめると、家族や支持者、さらには国民が彼を「信頼」していたにもかかわらず、彼が裏切る行為を行ったために、その関係が大きく傷つけられたといえます。

家族や近しい人々に対する裏切り行為は、信頼を壊すだけでなく、感情的な面でも強いダメージを与え、その回復が難しいと言われています。

これが「信頼の脆弱性」として、山岸先生が理論で強調するポイントの一つです。

「セキュリティ・クリアランス法案」の信頼基準と「ラベリング」

玉木氏が提案した「セキュリティ・クリアランス法案」は、国家機密を取り扱う公務員や政務三役(大臣、副大臣、政務官など)の信頼性を確認するための法案です。

この法案の狙いは、情報漏洩や不正行為を防ぐために、信頼に値する人物を選定することにあり、玉木氏は「性的行動に関する節度」も調査対象に含めるべきだと提案していました。

これは、ハニートラップのようなリスクに備えるための施策として、倫理観や節度が不可欠であるとするものでした。

しかし、この提案が自らの不倫問題によって皮肉にも跳ね返る結果となりました。

つまり、玉木氏自身が提案していた「信頼に値するか」という基準に対し、彼自身がその基準を満たしているかどうか疑念が生じてしまったのです。

このような「信頼に値しない」というレッテルを貼られることは、ラベリング理論にも通じます。

ラベリング理論とは、一度貼られたレッテルがその人の評価や社会的な役割に影響を与えるという考え方です。

例えば、一度「信頼に値しない」というレッテルが貼られると、どれだけ誠実な行動を取ろうともその評価を覆すことが難しくなります。

玉木氏の場合、彼が今後誠実な態度を示し続けても、このラベルが影響を与え続け、信頼回復がより困難なものとなる可能性があります。

信頼が崩れるとどうなるか?「一貫性」と「責任感」の重要性

山岸先生の理論によれば、信頼関係を築くには「一貫性」と「責任感」が不可欠です。

信頼は、その人の行動が一貫しており、約束を守り続けることで築かれるものであり、リーダーや公人には高い倫理観と責任感が求められます。

特に、リーダーが言動の不一致や誠実さに欠ける行動をとると、それが周囲に与える影響は大きく、信頼は瞬く間に崩れ去ってしまうのです。

一貫性の欠如から見える「陰の非協力者」

玉木氏の不倫問題において、家族や支持者からの信頼を失った背景には、彼の行動が一貫性を欠いていたことが挙げられます。

公の場で倫理を重んじる姿勢を示していた一方で、私生活ではその価値観に反する行動を取っていたことが、周囲の信頼を失わせる要因となりました。

リーダーシップにおける「一貫性」の欠如は、単なる失望に留まらず、国民や支持者に対する信頼の大きな欠如として表面化します。

社会心理学における植村・松本・神(2014)での研究でも、「見られている状況で裏切る者より、見られている状況では協力的であるにもかかわらず、見られていない(ばれないだろう)と思われる状況で裏切る者ほど、他者から信頼されない(信頼に値しない)」ことが指摘されています。

玉木氏の行った、多くの支援者や国民の前でリーダーシップをしながら、露見しないと思われる場面での裏切りは、玉木氏が「陰の非協力者」であることを自ら国民に示してしまったことになります。

また、こうした「陰の非協力者」を信頼した場合、大きなダメージを負うことも指摘されています。

失われた信頼を回復するために必要なプロセス

信頼は築くのに時間がかかる一方で、失われるのは一瞬です。

そして、一度失った信頼を取り戻すためには、次のようなプロセスが必要です。

  1. 責任を認める:まずは自分の行動に対する責任をしっかりと認め、関係者や支持者に対して誠実に謝罪することが必要です。玉木氏が会見で謝罪をしたのは、このプロセスの第一歩と言えるでしょう。
  2. 透明な行動を示す:不祥事の後に信頼を取り戻すためには、今後の行動が一貫して誠実であることが不可欠です。玉木氏は今後、政治活動や私生活においても誠実な態度を示し続けることで、信頼の再構築が期待されます。
  3. 時間をかけた信頼の再構築:失われた信頼は短期間で回復するものではなく、長い時間と誠実な行動が求められます。山岸先生の理論では、信頼を再び得るためには、継続的に誠実な行動を示すことが必要とされます。玉木氏が今後も誠実さを示し続けることで、信頼が徐々に回復する可能性があります。

「信頼に値しない人」というラベリングの影響とその克服

玉木氏が提案していた「セキュリティ・クリアランス法案」の信頼基準に基づき、彼が「信頼に値しない」とみなされることは、彼にとって大きなラベリング効果をもたらすでしょう。

一度貼られた「信頼に値しない」というレッテルを払拭するのは容易ではなく、このレッテルがあることで、今後の誠実な行動や成果が正当に評価されにくくなります。

山岸先生の理論でも、こうしたラベリングを克服するには、透明性のある行動と一貫性の維持が重要であるとされています。

玉木氏がこのラベルを乗り越えるためには、今後の行動で誠実さと透明性を持ち続け、時間をかけて少しずつ信頼を回復することが不可欠です。

まとめ:玉木雄一郎代表は今後信頼を取り戻せるか?

最終的に、玉木氏が再び信頼を得るには、今後の行動次第です。

信頼を失った政治家が再び信頼を取り戻すためには、日々の行動で倫理的な一貫性を示し、時間をかけて信頼の回復を目指す必要があります。

また、「セキュリティ・クリアランス法案」で掲げた信頼基準に自らも従い、誠実な態度で信頼回復に努める姿勢が求められます。

山岸先生の「信頼の構造」に基づくと、信頼の回復には非常に長い時間と誠実さが必要です。

玉木氏が今後も支持者や国民に誠実な行動を示し続けることで、少しずつ信頼を回復していく可能性はありますが、それには多大な努力と時間がかかるでしょう。

<参考文献>

山岸 俊男(1998).信頼の構造―こころと社会の進化ゲーム― 東京大学出版会

植村 友里・松本 良恵・神 信人(2014).なぜ人は非露見状況でも利他的に振舞うのか 心理学研究,85-2, pp. 111–12